善次さんがいつごろこの村に来たのか
私は知りません。
いちばん古い思い出の中にも、彼は
同じ笑顔でそばにいてくれました。

善次さんのような人を、私は他に
知りませんでした。
どんなことがあっても決して怒らず、
いやな顔など見せたこともなく、
ほんの小さな幸せに心の底から
感謝できる人。

ほんとうに、彼はかみさまのような人でした。

ただ洗っただけのきゅうりも、
不出来な私のおにぎりも、
善次さんはおいしいおいしいと
喜んで食べてくれました。
口うるさい村のお年寄りでさえ
一目置くほど、善次さんは
食べ物をたいせつにしていました。

わたしも歳を重ね
すこしづつ背が伸びても、
善次さんはいつまでも同じ姿のままでした。
けれど私も村の人たちも、不思議だと
思いながらそれを受け入れていたのです。

夏になると、街ではほとんど
見られなくなってしまった蛍が
毎年数を増やしながら村の夜空を舞います。
善次さんは、その仄かな光が
なによりも好きなのだと言っていました。
もどる つぎ

inserted by FC2 system